プレスリリース

powered by JPubb

本ページでは、プレスリリースポータルサイト「JPubb」が提供する情報を掲載しています。

≫ 2026-09-25 00:00:00 更新

水素蓄電の性能向上による防災性の高い地域づくり

2026年9月25日

理化学研究所
公立阿伎留医療センター
株式会社メグレナジー

水素蓄電の性能向上による防災性の高い地域づくり

-大規模災害時の地域エネルギー供給に期待-

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター 光量子制御技術開発チームの和田 智之 チームディレクター、公立阿伎留医療センター(東京都あきる野市)の武井 正美 院長、株式会社メグレナジーの図師 誠 代表取締役社長らの共同研究グループは、再生可能エネルギーを利用した水素蓄電システム[1]による自律エネルギー供給システム[2]において、水素を生成する水電解セル[3]の安定性を向上させる制御方法を導出するとともに、水電解セルの製造方法の改良に成功しました。

本研究成果は、災害などで大規模電源などからの電力供給が絶たれた場合にも、地域において一定のエネルギー供給を確保することへ貢献が期待されます。

再生可能エネルギーによる電力は、気象条件により発電量が左右されるため、発電量を補償する必要があります。発電量補償の一つである水素蓄電システムでは化学反応に伴う運転の安定性について懸念がありました。

今回、共同研究グループは、水素蓄電システムにおいて水素を発生させる水電解セルの触媒下での環境と、触媒に印加される電位の関係から「触媒が安定して存在するpH[4]と電位の範囲」を導出しました。さらに水電解セルを構成する膜電極複合体の製造方法を改良して、水素発生の安定性向上に成功しました。

本研究は、2026年第87回応用物理学会秋季学術講演会(日本時間:9月8日付)にて発表されました。

水電解セルの安定性を評価する際のサイクルとその結果(概念図)

背景

近年の災害の頻発により、大規模集中型の電力システム[5]における災害時の脆弱性が顕在化しました。ひとたび大規模集中型の電力システムが停止すると、広域停電や広域連鎖的遮断[6]による全域停電[7]へと被害は地域全体に広がります。停電が発生すると、水道ポンプの停止、通信障害、医療機器の停止など、電力以外のライフラインや命を守る機能などが同時に機能不全に陥ります。全てのライフラインの基盤となる電力の確保は極めて重要です。

地震などの災害の被害を最小限に抑えて、その後の避難生活を左右するのはライフラインの確保と復旧です。そこで、基幹系統からの電力供給が止まっても地域が自立的にエネルギーを供給できる防災性の高い地域づくりが求められています。

防災性の高い地域づくりとして、地域や施設単位で地域資源活用した再生可能エネルギーを利用した小規模の自律エネルギー供給システムを整備することが考えられます。災害が発生し、基幹系統からの電力供給が停止しても、地域などにおいてライフラインを維持して、自立的に必要な電力をまかなうことができるだけでなく、再生可能エネルギーの導入により二酸化炭素の排出量を削減することもできます。

しかし、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーによる電力は、日周期や天候などの気象条件により発電量が左右されるため、使用者が必要なときに電力を利用できるように発電量を補償する必要があります。現在は、出力制御を行いやすい化石燃料(火力発電など)の電力を用いて、再生可能エネルギーの発電量を補償しています。しかし、化石燃料による電力の調整能力には出力変動への適応に限界があるため、この限界を乗り越えるために別の発電量補償システムが必要です。

再生可能エネルギーの発電量補償の候補の一つは、リチウムイオン電池や鉛電池などの蓄電池での電力貯蔵です。蓄電池は電力の損失が少ない一方、長期間の電力貯蔵では自己放電してしまいます。

もう一つの候補は、再生可能エネルギーの余剰電力で水を電気分解して、水素を製造・貯蔵し、必要なときに燃料電池で発電させて再び電力とする水素蓄電システムです。水素蓄電システムは、蓄電池と比べて電力損失は多くなりますが、自己放電がないため電力の長期保存では優れています。余剰電力から水素をつくるときや燃料電池発電により水素から電力をつくるときに発生する熱や、水素をつくるときに発生する酸素は、寒冷地や、病院、魚の陸上養殖などで利用可能で、エネルギーの総合利用効率をさらに高めることができます。

しかし、水素蓄電システムでは、電力と水素の間の変換に一定の時間を要するため、瞬時の電力変動には適応できません。そのため、水素蓄電システムのみで自立可能な自律エネルギー供給システムを構成するためには、蓄電池やスーパーキャパシタ(急速充給電可能な蓄電装置)のような高速応答が可能なデバイスとの組み合わせが必要です(図1)。

図1 蓄電池と水素貯蔵を組み合わせた自立可能な自律エネルギー供給システムの模式図

太陽電池や風力発電をエネルギー源として使用者が必要なときにエネルギーを利用できるようにするエネルギーシステムの模式図。急速充給電可能な蓄電池と水電解セル、燃料電池を介した大量のエネルギーを貯蔵可能な水素貯蔵部を有する。これら蓄電池、水電解セル、燃料電池への電力充給電は、使用者が必要なときに必要なだけエネルギーが利用できるように、制御することが必要である。

和田チームディレクターらは、複数の電力貯蔵デバイスから成る電力システム全体の制御方法として、DCバスライン(直流電力線)[8]の電圧を信号として用いた制御方法を提案しました注1、2)。この制御方法では、電力システムを構成する電力貯蔵デバイスは安定動作するものと見なし、電圧によって安定領域が定まるデバイスの条件は考慮していませんでした。そのため、化学反応を伴う水素蓄電システムなどへの安定運転の対策が十分でなく、電力システムの長時間安定運転に懸念がありました。

共同研究グループは、電力貯蔵デバイスに水素蓄電システムを含む電力システムを安定に運転させるための自立可能な自律エネルギー供給システムの開発に挑みました。

研究手法と成果

和田チームディレクターらは、2025年に水素蓄電システムを構成する水電解セルの電気化学的な反応の安定性を検証しました注3)。共同研究グループはこの結果をさらに発展させることにより、水素蓄電システムを含む自律エネルギー供給システムの安定運転を検証しました。

水素蓄電システムは、水を電気分解して水素と酸素を製造する水素製造装置と、水素を貯蔵する水素貯蔵タンクと、水素と酸素を反応させて発電する燃料電池とから構成されています。水素製造装置に備えられた固体高分子型水電解セル[9]に電圧を印加することで電解反応を起こして水素を発生させます。電解質膜の両側に触媒層(電極)を接合した膜電極複合体[10]を備え、膜電極複合体で水を電気分解します(図2)。電気分解では、触媒を使用して水素と酸素を効率的に製造します。

図2 水電解セルの構成および動作とその中に組み込まれる膜電極複合体の模式図

固体高分子型水電解セルの中に膜電極複合体と呼ばれる陽イオン交換膜の両側にアノード触媒(右図ピンク)とカソード触媒(右図水色)を備える(右図)。固体高分子型水電解セルの場合、アノード側に水を供給し、アノード触媒部分で水を酸化することで酸素生成を行う。この酸素生成に伴い生成した水素イオン(プロトン)が陽イオン交換膜を通ってカソード側に移動し、カソード触媒部分で水素イオン(プロトン)から水素を生成する。外部からの電力供給は、水電解の反応と対応しており、アノード側がプラス、カソード側がマイナスとなる。

これまで酸素生成触媒の安定性が水電解セルの安定性に影響を与えることは示唆されていました注4)。そこで、触媒が置かれた環境(酸性・アルカリ性の指標である水素イオン指数(pH))と、触媒に印加される電圧の関係から「触媒が安定して存在するpHと電位の範囲」を導出しました(図3)。そして、導出した範囲で運用すると、水電解セルは安定して水素を生成することを実証しました。具体的には、水電解セルの酸素生成触媒として酸化マンガン[11]に酸化イリジウム[11]が混ざったものを用いた場合、マンガン酸化物が安定に存在するpHと電位の範囲で運用しました。環境のpHはデバイスの構造により決まっているので、システム側から制御する電圧範囲を規定すれば、デバイスおよびシステムの安定性を向上させることが可能です。

図3 マンガン酸化物のpHと電位の関係と本水電解セルの安定領域

マンガン(Mn)酸化物のプールベー図(pH-電位図)。pHと電位からマンガン酸化物の安定に存在する形態を示す。固体高分子型水電解セルは非常に高電流密度で動作されている上、陽イオン交換膜中は水素イオン(プロトン)が移動しているため、この周辺はかなり酸性になっており、アノード触媒付近ではpH 1前後であると考えられる。このpHにおいて固体で存在できる領域は矢印でおおよそ示してあるマンガン酸化物の一種のMnO2の領域で、電位範囲では1.4~1.7 V程度であり、この範囲より高い電位だと同じマンガン酸化物ではあるが水に溶けるMnO4となり水中に溶解し、この範囲より低い電位だとマンガンのイオンであるMn2+となり水中に溶解することが分かる。この電圧範囲は実際に安定動作する範囲として観測された電圧に近く、触媒の安定性が水電解セルの安定性に関与していると考えられた。Ion conc.=1E-6mol/Lは、液体中のイオン濃度を1x10-6mol/L(モル毎リットル)で計算をしたことを示す。

膜電極複合体は、高温環境にて圧着(加圧による接合)することで製造されます。この圧着時の温度は、膜電極複合体のイオン交換ポリマーが変性しないとされている摂氏130度程度までとされています。本研究では、圧着時の温度を摂氏130度から摂氏165度にすることで安定性がさらに向上することを見いだしました。

今後の期待

今回の研究では、再生可能エネルギーをエネルギー源とする化学的反応を含むデバイスを自立可能な自律エネルギー供給システムで利用する場合には、化学的な安定性を十分考慮した上でシステムでの制御、およびデバイスの作製を行うことが重要であることが分かりました。デバイス側の化学的な安定性を満たすべき条件はまだ十分解明されていないため、この安定性の解明を今後も進め、さらなるエネルギー供給システムや水電解セルなどの電気化学デバイスの安定運用を目指します。

本研究成果により、現在試験的に用いられているエネルギー供給システムの安定性をさらに向上させて、社会への普及を推進していきます。

補足説明

  • 1.水素蓄電システム
    余剰電力を用いて水電気分解装置(水素製造装置)で水素を製造し、水素貯蔵装置(水素タンク)で水素を貯蔵し、電力が必要なときに、蓄えた水素を燃料として燃料電池で発電を行うシステム。
  • 2.自律エネルギー供給システム
    従来の大規模集中型の電力システム([5]参照)に代わって、分散した小規模の発電システムを地域に設置することで、地域が自立的に電力をまかなうシステム。
  • 3.水電解セル
    水を電気の力で分解し、酸素と水素を生成する装置。電解液をビーカーの中に入れ、電極を2本入れて電圧を印加した場合と反応は同じであるが、電力の利用効率を高くするためさまざまな工夫を行っている。
  • 4.pH
    pHは「ピーエイチ」または「ペーハー」と読み、酸性、塩基性(アルカリ性)の尺度である。純水はpH=7(中性)であり、pHが7よりも小さい場合は酸性、pHが7よりも大きい場合は塩基性である。酢酸は弱酸であるため水溶液を作るとpHは5付近の値になる。pHは0~14の範囲の値がよく使われているが、水素イオンの濃度から算出される値であるため、値の範囲に制限はない。濃度の高い酸の溶液では負の値になることもあるし、濃度の高い塩基の溶液ではpHが14を超えることもある。
  • 5.大規模集中型の電力システム
    原子力発電所や火力発電所、水力発電所といった大規模発電所が、電力消費地から離れた場所から送配電網を通じて一方的に電力を供給する仕組み。1カ所の障害が広範囲に影響を及ぼす大規模停電リスクや送電ロスが課題となっている。
  • 6.広域連鎖的遮断
    主に電力インフラにおいて、一部の発電設備や送電網の停止・故障をきっかけに、電気の需給バランスが崩れることにより、発電設備が連鎖的に停止し、全域停電([7]参照)へ至る現象。
  • 7.全域停電
    大手電力会社の管轄する地域の全てで停電が起こる現象。
  • 8.DCバスライン(直流電力線)
    直流で電力を輸送するための電気伝導線であり、通常は2本一対で電圧一定で運用する。本チームで提案された電力システムはこのDCバスラインの電圧を変化させ信号として利用する。
  • 9.固体高分子型水電解セル
    陽イオン導電性の電解質膜を電解液の代わりに用いて水電解を行うセル。セルを構成する固体高分子膜より成る電解質膜はポリマーを主体とし、陽イオン導電性を持つ。純水を原料に電圧を印加することで水素を得るため、安全性に優れており、さまざまな場所に分散して配置するのに適する。
  • 10.膜電極複合体
    プロトン(水素イオン)が通過できる固体高分子型水電解セルと、水を酸化して酸素を作る触媒層、水を酸化する際にできるプロトン(水素イオン)を還元して水素を作る触媒層、を一体として形成したもの。
  • 11.酸化マンガン、酸化イリジウム
    マンガンの酸化物(二酸化マンガン)、イリジウムの酸化物(二酸化イリジウム)であり、水を酸化して酸素をつくる触媒として用いられる。

学会情報

  • 藤井克司、奈良美幸、村上武晴、小川貴代、武井正美、図師 誠、和田智之, "エネルギー貯蔵を目指した水素利用とその要となる固体高分子型水電解の特性向上へ影響する膜電極複合体製造条件", 2026年第87回応用物理学会秋季学術講演会, 8p-E202-3, 09.08 14:00 - 14:15

発表者

理化学研究所
光量子工学研究センター 光量子制御技術開発チーム
チームディレクター 和田 智之(ワダ・サトシ)

公立阿伎留医療センター
院長 武井 正美(タケイ・マサミ)

株式会社メグレナジー
代表取締役社長 図師 誠(ズシ・マコト)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
お問い合わせフォーム

公立阿伎留医療センター 経営企画室
Tel: 042-558-0321
Email: hisho@akiru.hospital

株式会社メグレナジー
Tel: 03-6820-7934
Email: info@mg-renergy.co.jp

産業利用に関するお問い合わせ

お問い合わせフォーム


再生可能エネルギー等に関するプレスリリース
電力会社・ガス会社等によるプレスリリース

情報提供:JPubb

プレスリリース一覧に戻る