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発表・掲載日:2024/10/31
-熱電変換ユニット搭載型の小型炭化炉から効率的にバイオ炭を生産-
バイオ炭をベースとした地域循環型エコシステムの概要
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)省エネルギー研究部門 馬場 宗明 主任研究員、ゼロエミッション国際共同研究センター 今里 和樹 主任研究員、山本 淳 副研究センター長、石田 敬雄 総括研究主幹、太田 道広 研究チーム長は、バイオマス炭化炉に熱電変換ユニットと断熱材を組み合わせて熱マネジメントすることで、バイオ炭の生産性向上と同時に廃熱を回収して発電を行うコプロダクションシステムの設計コンセプトを確立しました。
バイオ炭は、大気中のCO2を長期間固定できるネガティブエミッション技術であり、カーボンニュートラルの実現に貢献します。従来の小型バイオ炭生産設備(炭化炉)では、炭化時の廃熱が有効利用されず大気中に排出されていました。バイオ炭の生産性向上を図りつつ廃熱を有効利用するためには、炭化炉内の熱を適切に管理することが重要です。
今回、小型炭化炉に熱電変換ユニットと断熱材を組み合わせた熱のマネジメントを行うことにより、バイオ炭の生産性を高くすると同時に廃熱を利用して発電するゼロエミッション電源の実現が可能であることを明らかにしました。今回の試算では、この電源は1093 kgの木材から8時間の運転時間でバイオ炭を生産すると仮定した場合、7.4 kWhの電力回収が可能です。この発電量は、LED電球(100 W型)約90個の同時点灯や、空気供給用ブロア2~3台の稼働に相当します。電力インフラの整備が難しい山間部での利用を想定した場合、この自立的な電力供給能力は大きな意義があります。また、このシステムで生産されるバイオ炭は、916 kgのCO2を長期的に固定できる能力があります。日本各地の未利用バイオマスを有効活用し、地域分散型エネルギー生産と炭素隔離を同時に実現することで、持続可能な地域循環型エコシステムの構築とネイチャーポジティブな取り組みの推進に貢献します。
なお、この技術の詳細は、2024年9月24日に「Energy Conversion and Management: X」にオンライン掲載されました。2050年までに温室効果ガス排出をゼロにするカーボンニュートラルな社会の実現に向けて、CO2を実質的に吸収する「ネガティブエミッション技術」が求められています。バイオ炭は、植物が大気中から吸収したCO2を長期間固定できるため、有効なネガティブエミッション技術の一つです。しかし、従来の炭化炉では、炭化時の熱の有効利用の検討が十分でなく、廃熱は有効利用されず大気中に排出されていました。
また、日本の森林資源の有効活用も課題となっています。日本の国土の約7割を森林が占めています。そのうちの約4割が人工林であり、森林資源は人工林を中心に毎年約6千万m3増加しています*1。毎年発生する森林資源のうち約970万トンが間伐や主伐後に搬出されない林地残材であり、その約71%は未利用のまま森林内に放置されています*2。こうした未利用材は、バイオマス資源として大きなポテンシャルを持っていますが、収集・運搬コストの高さにより、その活用が進んでいませんでした。また、電力インフラが整備されていない地域での利用を考えた場合、自立的な電力供給源の確保が重要な課題となっていました。
産総研 ゼロエミッション国際共同研究センターでは、熱電変換材料の高性能化と熱電変換モジュールの発電性能評価技術に関する研究開発を進めており、ネガティブエミッション技術への応用例としてバイオ炭化炉への熱電発電技術搭載を検討してきました。また、省エネルギー研究部門では、産業分野や運輸分野における未利用熱の活用技術の開発を行ってきました。
今回、カーボンニュートラルに向けて、熱電発電技術を応用した新たな価値創出を目指し、バイオ炭生産プロセスの廃熱を電力に変換する新たなシステムを提案しました。
今回開発した技術は、小型炭化炉に熱電変換ユニットと断熱材を組み合わせて、バイオ炭生産と廃熱発電を同時に行います(図1)。従来の炭化炉では、数時間かかる炭化プロセスにおいて、発生する廃熱が大気中に放出されていましたが、本技術では炉壁に設置した熱電変換ユニットがこの熱を電気に変換します。
図1 バイオ炭・電気のコプロダクションシステム
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
ラボスケールのバイオマスストーブを用いて、熱電変換ユニットの性能評価を行いました。実験では、70 mm × 70 mmサイズの熱電変換ユニットを使用し、ストーブの表面温度と発電量の関係を調査しました。熱電変換ユニットはストーブ外表面に取り付けられ、ストーブ取り付け面と反対面には外気と熱交換を行うためのピンフィンヒートシンクが取り付けられた構造になっています。このピンフィンヒートシンクの採用により、外気との熱交換効率が大幅に向上するため、熱電変換ユニットを流れる熱量が増加し、発電量を高めることができます。自然空冷式のヒートシンクを冷却に採用することで、ファンなどの追加の電力を必要とせず、外気との効率的な熱交換を可能にしました。その結果、ストーブ表面温度が181 ℃の場合、熱電変換材料に約75 ℃の温度差が生じ、1.4 Wの発電が可能であることを確認しました(図2)。
図2 熱電変換ユニットのラボスケール試験(a)バイオマスストーブに設置した熱電変換ユニット (b)熱電変換ユニットの構造図 (c)温度条件と発電量の測定結果(Thはバイオマスストーブの外壁面温度、Tcはアルミプレートに設置したヒートシンクの壁面温度)
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。前述のラボスケールの検証結果を基に小型炭化炉の概念設計と熱・物質収支解析を行いました。熱電変換ユニットと断熱材が存在しないベースモデルに対して、これらの要素が加わった新しい小型炭化炉構造を想定し、その効果を定量的に評価しました。熱電変換ユニットの性能を最大限に引き出すため、ユニットの設置面積と冷却条件を最適化しました。具体的には、縦・横・高さが各2 mの炭化炉の表面のうち、2 m2に熱電変換ユニットを設置し、残りの部分には断熱材を使用して保温することで、バイオ炭の生産性と発電量の最適な条件を見いだしました。今回、バイオマス原料として乾燥したミズナラ(日本原産のナラ)を想定し、ミズナラ1093 kgを使用して、500~1000 ℃の範囲での炭化処理を実施する場合の熱・物質収支を解析した結果、比較的低温の500 ℃で炭化処理を行った場合に、バイオ炭の生産性が最大になることがわかりました。この条件下では277 kgのバイオ炭を生産することができ、このバイオ炭に固定される炭素の量をCO2に換算すると916 kgに相当します。さらに、炭化プロセス中に0.92 kWの連続発電が可能であることを示しました(図3)。この発電量はLED電球(100 W型)約90個を同時に点灯できたり、空気供給用ブロアを2~3台程度稼働できたりする電力です。本解析手法によると、断熱構造を持たないベースモデルの小型炭化炉では熱損失が大きく燃焼用に原料を189 kg投入する必要があり、投入されたバイオマス質量に対して、バイオ炭として固定される炭素量をCO2に換算した割合(CO2固定比率)は77.0%となっていました。本技術では、断熱材の効果で燃焼用原料を92.8 kgまで低減することができたため、炭化プロセス中に連続発電を行った場合でもCO2固定比率が83.8%になると試算されました。
図3 ベースモデルの炭化炉と今回開発した熱電変換ユニット搭載型炭化炉における原料、CO2固定量、発電量の比較。CO2固定比率は炭化用原料と燃焼用原料の総和に対するバイオ炭中のCO2固定量(バイオ炭に固定される炭素量をCO2量に換算した値)の割合。
※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。本技術の優位性は、小規模でも高効率な運用が可能な点です。大規模な炭化炉とは異なり、本システムは縦・横・高さが各2 mで設計されており、4トントラックで運搬可能です。典型的な炭化プロセスでは5~10時間程度の時間をかけてバイオ炭製造が行われているため、今回は平均的な時間として8時間を仮定して解析を行いました。熱電変換ユニットでは炭化にかかる8時間の間安定的に0.92 kWの発電を行うことができるため、合計7.4 kWhの電力を得ることができます。これにより、系統電源が利用できない山間部で導入が可能となり、バイオ炭を地産地消することで、地域の未利用バイオマスを活用した分散型エネルギー生産システムの構築が期待できます。また、本システムで生産されるバイオ炭は、土壌改良材としての効果が期待できます。バイオ炭の多孔質構造は、土壌の水分保持能力を向上させ、養分の保持にも役立ちます。本技術の導入による適正量のバイオ炭利用は、各地域の農地の生産性向上や生物多様性の促進にも貢献し、ネイチャーポジティブな取り組みにもつながります。
本技術は、未利用バイオマスの有効利用、分散型エネルギーの生産、炭素の長期固定、土壌改良による農地の生産性向上という四つの側面から、持続可能な社会の実現に貢献します。特に、日本のように森林資源が豊富で、かつ地理的に分散している国においては、地域のエネルギー自給率の向上と炭素隔離による気候変動対策の両立を可能にします。
今回、バイオマスの炭化とそれに伴う発電を同時に行うシステムの設計コンセプトに基づき、熱電変換ユニットのラボスケール試験を実施し、さらに熱電変換ユニットと断熱材を組み込んだ新規構造の小型炭化炉を想定した数値解析を実施することで、その効果を定量的に明らかにしました。
今後は、産総研開発の高性能熱電変換モジュール*3, 4などを利用し、さらなる高性能化を目指すとともに、実際の森林残渣を用いた実証実験を行い、さまざまなバイオマス原料や環境条件下での性能評価を進めます。また、小型化・軽量化を図り、可搬性を高めて、より多くの地域に導入できるシステムの実現を目指します。さらに、生成されたバイオ炭の土壌改良効果や長期的な炭素貯留能力についても研究を進め、環境への総合的な貢献度を評価します。2030年の社会実装に向けて、研究室スケールでの概念実証レベルから、規模を拡大し、実証実験を行う予定です。将来的には、本技術を基に、地域循環型のエネルギー・物質システムの構築を目指し、持続可能な社会の実現に貢献します。
掲載誌:Energy Conversion and Management: X
論文タイトル:Integrating thermoelectric devices in pyrolysis reactors for biochar and electricity co-production
著者:Soumei Baba, Kazuki Imasato, Atsushi Yamamoto, Takao Ishida, Michihiro Ohta
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ecmx.2024.100725
発明の名称:「発電装置」
出願番号:特開2024-047207
公開日:2024年4月5日
情報提供:JPubb