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2023年12月18日
COP28は1.5℃目標を達成するためには、2030年までに43%、2035年までに60%のGHG削減(2019年比)が必要とするIPCCの報告を受け止め、各国の削減対策の強化を求める決定を行った。最も注目されるのは、2030年までの世界の自然エネルギー設備容量3倍化、2050年ネットゼロに向けた化石燃料からの脱却という目標を明記したことである。
COP決定には参加国の全員一致が必要であり、今回の合意文書にも小島嶼諸国の代表が指摘するような弱点、抜け道が残されている。しかし、いま必要なのは、そのような抜け道の表現を理由に自然エネルギーへの転換を遅らせるのではなく、COP史上初めて化石燃料からの脱却が明記されたことにこそ着目し、2030年、2035年への大幅削減の実現を可能にする政策転換に真摯に取り組むことだ。
COP28決定が求めた2030年までの自然エネルギー設備容量3倍化は世界全体の目標である。しかし、12月6日の財団コメント1で述べたように、1.5℃目標達成のために日本で必要な排出削減には、日本でも2030年までではないとしても、2035年よりも前に3倍化が必要だ。
世界の自然エネルギー拡大の最大の牽引力は太陽光発電であり、2023年も欧州、米国、中国など多くの国々で、前年より導入量が大きく増加している。もう一つの牽引力、洋上風力開発では、インフレの影響による開発の遅延が懸念されたが、各国政府は導入拡大を再度、軌道に乗せるために必要な対応を行いつつある。
日本の状況を見ると、太陽光発電では、最新の入札で最低落札価格が初めて8円/kWhを下回るなど価格低下の動きはあるものの、出力抑制の増加などにより導入が停滞している。今後の拡大が期待される洋上風力では、12月に公表された入札結果で、多くの企業が上限の19円/kWhを大きく下回る価格での入札を行った。これらの企業はコーポレートPPAによる電力販売を計画していると見られ、その背景には、民間企業の高い自然エネルギー電力需要の存在がうかがわれる。
いま必要なのは、政府が高い目標を掲げるとともに、制度・規制改革によって自然エネルギーの導入環境を整えることにより、拡大を加速することである。人為的な障害を無くすことで、日本でも世界では既に実現している自然エネルギーコストの大幅な低下が可能になる。現在のエネルギー基本計画が2030年度に導入を目指す自然エネルギー設備容量は220GWであり、2021年度比で2倍に留まる。太陽光発電導入のこれからのフロンティアである住宅・建築物・都市施設の屋上などへの設置、農業と共存する耕作放棄地の活用など、導入加速に必要な施策は極めて不十分なままである。浮体式も含む洋上風力発電開発の加速には、更なる制度改革が求められる2。
COP28決定は化石燃料から脱却するための行動を、2030年までの間に加速することを求めた。現在の第6次エネルギー基本計画には「化石燃料の段階的廃止」、「脱却」のいずれの表現も記載されていない。掲げられているのは「化石燃料の脱炭素化」である。すなわち政府の方針は2050年に至るまで化石燃料を使い続けることを前提しながら、排出削減を目指すというものだ。そのための政策として、特に強調しているのはCCSの活用と石炭アンモニア混焼発電の推進である。
政府の「CCS長期ロードマップ」は2050年に1.2~2.4億トンという大量なCO2の処理をCCSに依存する方針である。また第6次エネルギー基本計画の検討過程で示された2050年シナリオに基づく試算では、電力の2~3割をCCS付き火力で供給し、産業など他の部門での利用も合わせ、年3億トン以上のCO2貯留が必要という結果が示されている3。COP28決定は削減対策の一つとしてCCSをあげてはいるが、主に想定されているのは、他に排出削減方策がない部門 (hard-to-abate sectors) である。COP28の直前に国際エネルギー機関 (IEA)は、 世界の石油・ガス産業に脱炭素への取組みを求める報告書を公表し、大規模にCCSを利用して排出削減を行うことを「幻想 (illusion) 」だと指摘した。
日本政府のCCS政策は、大量の利用を想定しているという点において、また発電部門でも大規模な利用を見込んでいるという点において特異である。日本国内には、CO2の貯留場所が確保されておらず、政府は海外に輸出し貯留することを目論んでいる。こうした日本政府のCCS政策は実現可能なものとは考えがたい。
COP28決定は、削減対策のとられていない (unabated) 石炭火力発電所削減の取組み強化を求めた。IPCCが削減対策がとられていると定義するのは90%以上の排出削減を行った場合である4。石炭アンモニア混焼発電を推進している企業は、2030年までに20%、2040年までに50%アンモニア混焼の本格運用開始を目指している5。排出削減率は20%あるいは50%に留まり、IPCCの求める水準とは大きく乖離する。IEAのネットゼロシナリオは、先進国では2030年までに削減対策のとられていない石炭火力の廃止を想定している。計画されている混焼発電は高コストであり、推進している企業は政府の財政支援を求めている6。削減の対象とすべき発電所に対して公的支援を行うことは、COP決定に合致しないのではないか。今回のCOPでは、米国も石炭火力発電の廃絶をめざす脱石炭連盟(PPCA)への参加を表明した。G7で未参加は日本だけになった。石炭火力発電を延命するアンモニア混焼発電の推進は中止すべきだ。
政府はCCSと石炭アンモニア混焼発電を、GX戦略の国際政策である「アジアゼロエミッション共同体 (AZEC) 」構想の中で、東南アジアにも売り込もうとしている。これに対してはアジア各国の エネルギー政策シンクタンクからも、この地域の脱炭素化を損なうものとして強い批判の声が上がっている7。アジアの脱炭素化は、この地域に豊富に存在する自然エネルギー資源の活用を中心にめざすべきだ。
各国政府には2025年のCOP30までに新たな削減目標(NDC) の提出が求められており、日本でも年明けから第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が開始される。東日本大震災後、初めて改定した2014年のエネルギー基本計画は2030年の自然エネルギー導入目標を22-24%という極めて低い水準に設定し、2018年の改定でも据え置いてしまった。2021年の改定では36-38%に引き上げたものの、欧米先進諸国の水準と比べれば依然として低いままである。
いま日本以外のG7各国は2035年には、電力部門の完全な脱炭素化を目指しており、実際にその実現を展望できる状態に近づいている。日本における自然エネルギー開発の立ち遅れは、国が弁明するような日本の自然条件によるものではない。政府自身の調査によっても太陽光発電、風力発電を中心に日本には豊富な自然エネルギーポテンシャルがある。導入の遅れの根本的な要因は、化石燃料の利用継続と原子力発電の復権に固執する国の政策にある。
2030年、2035年、そして2050年の自然エネルギー導入目標を引き上げ、これと整合するような送電網整備、電力システム改革、実効性のあるカーボンプライシングの導入、多くの省庁にまたがる規制改革を行うことが必要である。日本で投入可能な公的資金、また民間資金には限りがある。GX戦略が推進する脱炭素投資は、化石燃料の延命に手を貸す技術のためにではなく、自然エネルギー開発とその活用に必要な電力系統整備など、世界でも試され済みの脱炭素対策に使うべきだ。
COP28決定を受けた日本の取組みについて、経済産業省の交渉担当者が「これ以上の対策が必要という認識はない」と語ったと報じられている8。日本政府がもしこのような観点から第7次エネルギー基本計画の改定など、今後のエネルギー・気候政策の立案を進めるなら、現在でも立ち遅れている日本の脱炭素化は更に遅れることになる。気候危機回避に果たすべき役割を果たせないだけでなく、脱炭素化を求められる日本企業は国際的な競争で苦境に立つことになる。
日本の企業、地方自治体、団体・NGOの力を統合し、また政府の中でも真剣にエネルギー政策の転換を進めようとする人々とも連携し、脱炭素化を加速することが求められる。自然エネルギー財団は、COP28決定を受け、化石燃料から自然エネルギーへの転換に力を尽くしていく。
情報提供:JPubb