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2021-01-26 00:00:00 更新

全固体電池の界面不純物制御により電池容量を2倍に-電気自動車の航続距離の増加や定置蓄電など、応用範囲の拡大に向けて-

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発表・掲載日:2021/01/26

全固体電池の界面不純物制御により電池容量を2倍に

-電気自動車の航続距離の増加や定置蓄電など、応用範囲の拡大に向けて-

要点

  • 不純物を含まない清浄な界面を作製すると、全固体電池の電池容量が倍増することを発見
  • 放射光X線回折測定により、界面近傍のリチウム分布や結晶状態を明らかにした

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の一杉太郎教授、東北大学の河底秀幸助教らは、産業技術総合研究所の白澤徹郎主任研究員、および日本工業大学の白木將教授らと共同で、電極と固体電解質が形成する界面における不純物制御により、全固体電池の容量を倍増させることに成功した。

全固体電池の開発目標として電池容量の増加と高出力化が挙げられる。電池容量の増加は、機器の使用可能時間の延長につながり、高出力化は、短時間での充電や、瞬間的な大きなパワーの取り出しを可能とする。

現在、リチウムイオン電池に搭載されている通常の電極材料よりも高い電圧を発生する電極材料LiNi0.5Mn1.5O4が注目されている。この材料を用いた全固体電池ではLiNi0.5Mn1.5O4を放電状態、Li“0”Ni0.5Mn1.5O4を充電状態としていた。しかし、不純物を含まない清浄な電極/電解質界面を作製すると、リチウムの含有量が2倍であるLi“2”Ni0.5Mn1.5O4を放電状態、Li“0”Ni0.5Mn1.5O4を充電状態として使えることがわかった。つまり、2倍の容量が実現したことを意味する。

さらに、界面形成時にリチウムイオンが自発的に移動し、界面近傍にLi2Ni0.5Mn1.5O4が不均一に存在することを、放射光X線回折測定により明らかにした。

本研究は、高容量型全固体電池の実現に向けて重要な一歩となるだけでなく、電極と固体電解質の界面におけるイオン輸送の学理構築にもつながる。

本研究成果は1月25日(米国東部時間)に米国化学会誌「ACS Applied Materials and Interfaces」オンライン版に掲載された。


研究の背景

固体電解質を用いる全固体電池は、高い安全性、高エネルギー密度(用語1)や高速充放電特性を兼ね備えた次世代の電池であり、電気自動車や電子デバイスの次世代電源として期待されている。現在、広く利用されている4 V程度の発生電圧を有するLiCoO2系の電極材料に加え、より高い電圧(5 V程度)を発生する電極材料LiNi0.5Mn1.5O4を用いた高出力型全固体電池に注目が集まっており、活発な研究が展開されている。

LiNi0.5Mn1.5O4を用いた全固体電池では、放電状態として「LiNi0.5Mn1.5O4」でなはく、「Li“2”Ni0.5Mn1.5O4」を用いると、電池容量が倍増することが予測できる。しかし、これまで、Li2Ni0.5Mn1.5O4を放電状態とした安定した全固体電池の充放電動作に関する報告は無かった。

研究成果

本研究グループでは超高真空プロセスを用いた薄膜作製技術を活用し、不純物を含まない清浄な電極/電解質界面を有する全固体電池を作製した。具体的にはエピタキシャル成長(用語2)をしたLiNi0.5Mn1.5O4薄膜を形成し、その上にLi3PO4固体電解質を成膜し、最後に負極としてLiを蒸着した。その結果、Li2Ni0.5Mn1.5O4を放電状態、Li“0”Ni0.5Mn1.5O4を充電状態として、50回もの安定した充放電動作に成功した(図1a)。

この電池は4.7 Vと2.8 Vで動作し、その容量は従来のLiNi0.5Mn1.5O4電極材料を用いた電池の2倍の容量である(図1b)。さらに、不純物を含まない清浄な電極/電解質界面であるため界面抵抗が小さく、高出力が実現する。対照実験として、電極/電解質界面に不純物を混入させると、充放電動作は全く観測できなかった (図1c)。これらの結果は不純物を含まない清浄な界面の実現が、電池の高容量化に極めて重要であることを意味している。

さらに、この電池容量が増大するメカニズムを詳しく調べた。LiNi0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜の作製後、その上に固体電解質Li3PO4 を堆積させると、リチウムイオンが自発的にLi3PO4からLiNi0.5Mn1.5O4に移動することがわかった。また、放射光X線回折測定により結晶構造を調べたところ、LiNi0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜の界面近傍でLi2Ni0.5Mn1.5O4が不均一に形成されることを明らかにした(図2a)。

そして、固体電解質の上にリチウム電極を堆積させて電池を作製すると、リチウムイオンの自発的移動がさらに促進され、LiNi0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜はLi2Ni0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜へと完全に変化することがわかった(図2b)。これは不純物を含まない清浄な界面の形成により、リチウムイオンがスムーズに固体電解質側からLiNi0.5Mn1.5O4側に移動したと考えられる。

図1 LiNi0.5Mn1.5O4全固体電池の充放電測定の結果
清浄な界面を有する場合の(a)サイクリックボルタンメトリー(用語3)と(b)電池容量。50回目まで、安定した充放電動作を確認した。(c) 界面に不純物が存在する場合のサイクリックボルタンメトリー。充放電動作は全く確認されなかった。

図2 LiNi0.5Mn1.5O4全固体電池における界面形成過程と充放電動作の概略図
(a) 界面形成直後の様子。LiNi0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜の作製後、その上に固体電解質Li3PO4を堆積した状態。リチウムイオンの自発的移動により、界面近傍でLi2Ni0.5Mn1.5O4が不均一に生成する。MgOはLi3PO4の劣化を防ぐ保護層である。(b)–(d) 充放電動作中の薄膜構造。(b)はリチウム電極を蒸着した電池作製の直後の様子。リチウムイオンの自発的移動が促進され、LiNi0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜はLi2Ni0.5Mn1.5O4エピタキシャル薄膜へと完全に変化 (放電状態)。(c)は充放電動作中の電池の状態、(d)は充電状態を示す。なお図中のL0NMO、LNMO、L2NMOは、それぞれLi0Ni0.5Mn1.5O4、LiNi0.5Mn1.5O4、Li2Ni0.5Mn1.5O4を示す。

今後の展開

今回、LiNi0.5Mn1.5O4全固体電池における電池容量の倍増が実現したことにより、清浄な電極/電解質界面の新たな役割が浮き彫りとなった。これまで清浄な界面により実現してきた低界面抵抗や高速充放電に加え、電池容量の倍増は全固体電池の応用範囲の拡大につながり、実用化を目指す上で、大きな一歩となると考えられる。

謝辞

本研究は、トヨタ自動車株式会社、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)、日本学術振興会(JSPS)科研費の支援を受けて行った。

論文情報

掲載誌:ACS Applied Materials and Interfaces
論文タイトル:Clean Solid-Electrolyte/Electrode Interfaces Double the Capacity of Solid-State Lithium Batteries
著者:Hideyuki Kawasoko, Tetsuroh Shirasawa, Kazunori Nishio, Ryota Shimizu, Susumu Shiraki, and Taro Hitosugi
DOI:10.1021/acsami.0c21586


用語説明

(1)エネルギー密度
電池から取り出すことのできるエネルギー量の値。単位体積や単位質量などで規格化される。[参照元へ戻る]
(2)エピタキシャル成長
基板界面の結晶面と揃った結晶を成長させる方法。この結果得られた薄膜は、基板結晶と方位が揃っており、良好な界面が得られる。[参照元へ戻る]
(3)サイクリックボルタンメトリー
電池電圧を変化させ、発生電流を測定する手法。Li量変化を伴う充放電動作が起きると、特定の電圧で、発生電流がピーク形状を示す。[参照元へ戻る]


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