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2020-08-05 00:00:00 更新

300GHz帯無線トランシーバの省電力化に成功~5Gの先を見据えた超高速無線通信を小型・低コストICで実現~(NTT持株)

NTT持株会社ニュースリリース

(報道発表資料)

2020年8月5日

国立大学法人東京工業大学
日本電信電話株式会社

300GHz帯無線トランシーバの省電力化に成功
〜5Gの先を見据えた超高速無線通信を小型・低コストICで実現〜

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授らと日本電信電話株式会社の研究グループは、5G(用語1)で用いられる28GHz帯の10倍高い周波数である300GHz帯(用語2) を用いる超高速無線通信トランシーバの開発に成功した。
この無線トランシーバは、34Gbps(ギガビット/秒)の高速な無線通信を、送信・受信合わせて、わずか410mWの低消費電力で実現できる。新たに考案した高利得なミキサ回路(用語3)を採用することで、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセス(用語4)による製造を可能とした。
低コスト化・省面積化・低消費電力化が達成できたことにより、スマートフォン等のモバイル端末への搭載が可能となった。5Gの次の世代の無線通信システムの実用化を加速させる成果である。
研究成果の詳細は、8月4日(米国太平洋時間)からオンライン開催される国際会議IMS 2020「International Microwave Symposium 2020」で発表する。

要点

  • 従来の4分の1以下の消費電力で次世代300GHz帯無線トランシーバを実現
  • 提案したミキサ回路によりは低コスト化・省面積化・省電力化を達成
  • スマートフォン等のモバイル機器に搭載可能

1.開発の背景

2020年3月に国内で5Gのサービスが開始された。その一方で、早くも5Gの次の世代の無線通信に関する研究が活発に行われている。より高速・大容量な無線通信を実現するために、5Gにおけるミリ波帯よりもさらに10倍以上高い周波数帯である300GHz帯の利用が期待されている。
5Gでは一般に28GHz帯の周波数を用いることで最大10Gbpsの通信速度を実現可能である。そこからさらに周波数を上げ300GHz帯を用いることにより、利用できる通信帯域幅を増やし、最大で300Gbpsを超えるような無線通信も夢ではなくなってきた。300GHz帯無線機の早期実用化に向け、小型・低コスト化、そして将来モバイル端末にも搭載できるような省電力化技術が強く求められている。

2.課題

コスト面で優位なシリコンCMOSプロセスを用いた300GHz帯無線機は、これまでにも発表されてきたが、消費電力および回路面積の削減が難しいという問題があった。これは、300GHz帯ではシリコンCMOS上で増幅器を実現することが困難で、この制約のもと無線機の出力電力を向上させるには、小さな出力電力の回路を複数用いて、その出力を足し合わせる必要があるためである。
その結果、無線IC上に搭載されるトランシーバの数が増大し、消費電力および面積の増大を招いていた。一方で、より高周波特性の優れたインジウムリン(InP)などの化合物半導体を用いることで、300GHz帯の増幅器を実現することも可能であるが、集積化において課題が残る。

3.研究成果

本研究では、新たに高利得なミキサ回路を考案することで、シリコンCMOSプロセスにおいても、省面積かつ低消費電力で動作する無線トランシーバの開発に成功した。今回開発した無線トランシーバの全体構成を示す(図1、 2)。送信機、受信機ともに新たに開発したミキサ回路を用いることで、アンテナとミキサの間に増幅器を搭載することなく、無線通信に必要な高い信号対雑音比(SNR=signal-noise ratio)を実現できる。
従来のミキサでは、中間周波数帯の変調信号と周波数変換に用いるローカル信号を同じ端子から入力しているため、トランジスタの電圧電流変換の非線形性を利用する方式で周波数変換を行っており、ミキサ回路の利得(電気回路における入力と出力の比)の向上が困難だった。また両方の信号に対してインピーダンス整合(用語5)をとる必要があるために中間周波数とローカル信号周波数を同じ周波数帯にする必要があり、変調波信号とローカル信号双方に対して100GHzを超える増幅器が必要だった。
増幅器の消費電力は周波数に応じて増大するため、このことが、従来の無線トランシーバの大きな消費電力の一因となっていた。今回、新たに変調信号とローカル信号(用語6)を異なる端子から入力するようなミキサ回路構成を考案した。このような構成により、トランジスタのスイッチングを利用する方式で周波数変換が可能になり、従来よりもミキサ回路の利得を約2倍向上させることに成功した。また本方式では、中間周波数(用語7)は100GHz以下に設定することができるため、消費電力を大幅に削減することが可能となる。
開発した300GHz帯無線トランシーバをシリコンCMOS 65nmプロセスを用いて試作を行い(図3)、300GHz帯における無線通信特性の測定評価を通して提案技術の有効性を確認した。トランシーバは、IEEE802.15.3d(用語8)の無線規格において規定されるスペクトルマスクを278GHzから304GHzの周波数において満たしており、QPSK(用語9)から16QAM(用語10)の変調方式に対応可能である。
最大の通信速度は34Gbpsであり、そのときの消費電力は、送信機・受信機合わせて410mWとなり、シリコンCMOSの300GHz帯トランシーバの先行研究に対して4分の1以下の省電力化を達成した。また複数のトランシーバを用いた電力合成を必要とせず、1系統のトランシーバのみで構成できるため、チップ面積はトランシーバ全体で3.8mm2と省面積で実現できた。

4.今後の展開

今回開発した300GHz帯無線トランシーバは、シリコンCMOSプロセスを用い、省電力化および省面積化を実現した。省電力化は無線機の小型化、さらにはモバイル端末への搭載を可能にし、CMOSプロセスによる省面積な無線ICは、無線機の低コスト化につながる。本研究成果を基に、さらなる高速化を図り、次世代の100Gbpsを超える超高速・大容量な300GHz帯無線通信の実用化をめざして開発を進めていく。

図1 開発した300GHz帯無線トランシーバの全体構成

図2 開発した300GHz帯無線機IC(プリント基板上に実装)

図3 試作した無線トランシーバICの写真

用語説明

  1. (1)5G:2019年に展開を開始した、国際的な移動通信ネットワークの第5世代技術標準。現在ほとんどの携帯電話に用いられている第4世代移動通信システム(4G)ネットワークの後継の規格である。5Gネットワークの主な利点の一つは、より大きな帯域幅を持つことであり、さらなる高速化によって、最終的には10Gbps(ギガビット/秒)以上の通信速度を目標としている。既にサービスを開始している5Gの移動通信のほとんどは従来技術の延長であり、4G携帯電話と同じかわずかに高い、6GHz程度までの限られた帯域の周波数範囲を使用している。一方で、高度な技術が必要とされる、ミリ波を利用した5Gシステムも活発に研究されており、新たなテクノロジーの突破口となることが期待されている。
  2. (2)300GHz帯:現在5Gに割り当てられている28GHzの周波数帯の10倍以上高い周波数帯で、最大で約70GHzの帯域幅を利用することができるため、超高速無線通信の実現が期待されている。
  3. (3)ミキサ回路:無線トランシーバにおいて、送信するために所望の周波数帯まで周波数を上げたり、受信のために中間周波数帯まで周波数を下げたりする回路。
  4. (4)シリコンCMOSプロセス:CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。
  5. (5)インピーダンス整合:最大の電力を負荷に伝送するために、入力と出力のインピーダンスを合わせること。
  6. (6)変調信号とローカル信号:変調信号とは、無線通信される情報をもつ信号で情報量に応じた帯域幅を持つ。一方で、ローカル信号は単一の周波数成分しか持たず、変調信号を無線通信が行われる所望の周波数帯に変換するために用いる。
  7. (7)中間周波数:無線通信が行われる所望の周波数帯よりも低い周波数。この中間周波数において変調信号を作成することがある。
  8. (8)IEEE802.15.3d:IEEE(米国電子電気学会)において標準化された300GHz帯の無線規格。
  9. (9)QPSK:Quadrature Phase Shift Keyingの略。搬送波の4つの位相を用いる変調方式。
  10. (10)16QAM:16 Quadrature Amplitude Modulationの略。搬送波の振幅および位相変化の16値を用いる変調方式。

発表予定

この成果は8月4日からオンライン開催される国際会議IMS 2020(International Microwave Symposium 2020)において、「A 300GHz Wireless Transceiver in 65nm CMOS for IEEE802.15.3d Using Push-Push Subharmonic Mixer (IEEE802.15.3d向け65nm CMOSプロセスによるプッシュプッシュサブハーモニックミキサを用いた300GHz帯無線トランシーバ)」の講演タイトルで、現地時間8月5日午前11時00分から発表される。

講演セッションWe2C: Millimeter-Wave and Terahertz Transmitter and Receiver Systems
講演時間現地時間8月5日午前11時00分
講演タイトルA 300GHz Wireless Transceiver in 65nm CMOS for IEEE802.15.3d Using Push-Push Subharmonic Mixer (IEEE802.15.3d向け65nm CMOSプロセスによるプッシュプッシュサブハーモニックミキサを用いた300GHz帯無線トランシーバ)
会議Webサイトhttps://ims-ieee.org/
https://ims-ieee.org/technical-program/technical-sessions

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系 教授

岡田 健一(おかだ けんいち)
電話: 03-5734-3764
FAX: 03-5734-3764
Email: okada@ee.e.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

電話:03-5734-2975
FAX: 03-5734-3661
Email: media@jim.titech.ac.jp

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp

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