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2019-06-26 16:05:33 更新

環境振動発電素子の広帯域化に成功~エネルギーハーベスティングへの応用に期待~

令和元年6月26日

東京工業大学
科学技術振興機構(JST)

環境振動発電素子の広帯域化に成功

~エネルギーハーベスティングへの応用に期待~

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ポイント

  • 環境振動発電素子の広帯域化に向けた低閾値整流昇圧回路を設計。
  • MEMSと集積回路による実システムを開発して広帯域化に成功。
  • 振動発電素子の利用環境拡大に貢献。

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の山根 大輔 助教(兼 科学技術振興機構 さきがけ研究者)、東京大学 生産技術研究所の年吉 洋 教授と遠山 幸也 大学院生らは、環境振動発電素子注1)の広帯域化に向けた低閾(しきい)値整流昇圧回路注2)を設計し、MEMS注3)と集積回路によるシステムを開発して素子の広帯域化に成功した。環境振動発電素子の利用環境拡大に貢献するとともに、無線IoT注4)センサー端末などへ向けたエネルギーハーベスティング(環境発電)技術の性能向上につながると期待される。

本研究では、あらゆる環境振動発電素子の広帯域化に向け、環境振動周波数でも動作可能な低閾値整流昇圧回路を設計、その回路を利用した電気機械システムを提案した。さらにMEMSと集積回路の技術を用いてシステムを開発、広帯域化を実証した。従来の広帯域化手法は、特殊な機械構造やその調整回路が必要だったため、素子サイズ増大や素子ごとの専用回路が必要だった。

研究成果はドイツのベルリンで開催される国際会議「Transducers 2019 - The 20th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems(トランスデューサー2019 第20回固体センサー・アクチュエーター・マイクロシステム国際会議)」で2019年6月26日(現地時間)に発表される。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業

研究領域 「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出(CREST・さきがけ複合領域)」(研究総括:谷口 研二 大阪大学 名誉教授、副研究総括:秋永 広幸 産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 総括研究主幹)

(1)個人型研究(さきがけ)

研究課題名 「多層エレクトレット集積型CMOS-MEMS振動発電素子の創製」
研究代表者 山根 大輔(東京工業大学 助教)
研究期間 平成29年10月~令和3年3月

(2)チーム型研究(CREST)

研究課題名 「エレクトレットMEMS振動・トライボ発電」
研究代表者 年吉 洋(東京大学 生産技術研究所 教授)
研究期間 平成27年12月~平成31年3月

JSTはこの領域で、さまざまな環境に存在する熱、光、振動、電波、生体など未利用で微小なエネルギーを、センサーや情報処理デバイスなどでの利用を目的としたμW~mW程度の電気エネルギーに変換(環境発電)する革新的な基盤技術の創出を目指している。

上記研究課題(1)では、エレクトレット実装技術とCMOS-MEMS技術を融合し、環境振動エネルギーをmW級の電気エネルギーに変換する小型振動発電デバイスの実現を目指し、開発を行っている。

上記研究課題(2)では、次世代の無線センサーノードに必要な10mW級の自立電源を実現するために、MEMS技術とイオン材料技術を駆使して、環境振動から未利用エネルギーを回収し発電する振動発電素子の研究に取り組んでいる。

<背景>

次世代のIoT電源として、エネルギーハーベスティングの研究・開発が盛んに行われている。特に振動型の環境発電素子は、電池フリー、夜間・暗所でも発電可能であるため、低電力無線IoT端末向けの発電素子として注目されている。

環境振動発電素子は入力振動の周波数が素子の共振周波数注5)から外れた際に出力が急減することが主な技術課題としてあげられている。従来技術では、発電可能な入力振動の広帯域化のため、特殊な機械構造やその機械構造を調整するための専用回路を用いており、素子サイズの大型化や素子ごとの回路調整が必要だった。

<研究成果>

山根助教らはあらゆる環境振動発電素子の広帯域化に向け、環境振動周波数でも動作可能な低閾値整流昇圧回路(VBR:voltage-boost rectifier)を設計し、その回路を利用した新たな電気機械システムを提案した。図1にそのシステム概要を示す。

微弱な環境振動エネルギーから環境振動発電素子を用いて電気エネルギーを生成する場合、入力振動の周波数が環境振動発電素子の共振周波数から外れると出力が急激に低下する。そのため従来の整流技術(図1でダイオード整流として表記)では、非常に狭い帯域のみ電力として取り出していた。

今回の研究では環境振動周波数(主に1,000Hz以下)で動作可能な低閾値整流昇圧回路を新たに開発し、その回路を環境振動発電素子の後段に接続した新システムを提案した。図1の低閾値整流昇圧回路は、従来の整流素子よりも最低入力電圧が低く、さらに入力電圧を所望の電圧まで上げられる。

これにより、従来は回収不可能だった周波数帯域の振動エネルギーを電気エネルギーに変換可能となる。また、提案システムは環境振動発電素子の機械構造によらず適用可能なため、高い汎用性を有している。

今回の実証実験では、図2に示すようにMEMSと集積回路の技術を用いて実システムを開発した。環境振動発電素子にはエレクトレット型MEMS振動発電デバイス注6)を用いており、低閾値整流昇圧回路はシリコンCMOS(complementary metal-oxide semiconductor=相補型金属酸化膜半導体)プロセスで作製した。

振動試験機で発電素子を振動させた際のシステム出力電圧を測定した結果、従来のダイオード整流と比較して帯域が拡大していることが分かった。所望の出力電圧を1.0V~3.3Vとした場合、従来技術と比較して約3倍の広帯域化に成功した。

<今後の展開>

今回の研究では低閾値整流昇圧回路を利用した新たな電気機械システムを提案し、MEMSと集積回路の技術を用いた実システムにより広帯域化の実証に成功した。この技術を用いてあらゆる環境振動発電素子の利用環境を拡大することにより、無線IoTセンサー端末などへ向けた電池・配線・利用環境フリーのエネルギーハーベスティング技術の飛躍的な性能向上につながると期待される。

<参考図>

  • 図1 低閾値整流昇圧回路を利用した広帯域環境振動発電システムの概要
  • 図2 実システムとその測定結果

    入力加速度振幅1mGの測定結果。Gは重力加速度。

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<用語解説>

注1)環境振動発電素子
振動の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する素子のなかで、振動源として特に自然界に存在する微弱な環境振動を利用するもの。
注2)低閾値整流昇圧回路
電圧振幅が標準的なシリコンダイオード閾値電圧(0.6V~0.7V)よりも低い交流電圧を後段回路に必要な直流電圧まで整流かつ昇圧する回路。
注3)MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械素子)
半導体微細加工技術を利用して製造したマイクロメートル寸法の3次元電子・機械デバイスの総称。
注4)IoT(Internet of Things)
身の回りのあらゆるモノがインターネットを介して情報通信・相互制御を行う仕組み。
注5)共振周波数
環境振動発電素子が固有振動を起こすことができる、入力振動の周波数。一般的な振動発電素子では、共振周波数の入力振動でなければ有効な発電を行うことができない。
注6)エレクトレット型MEMS振動発電デバイス
半永久的に電荷を保持するエレクレット材料とMEMS可変容量素子を利用した振動発電素子。静電型MEMS振動発電デバイスとも呼ばれる。

<論文タイトル>

“BANDWIDTH ENHANCEMENT OF VIBRATIONAL ENERGY HARVESTERS BY A VOLTAGE-BOOST RECTIFIER CIRCUIT”

<お問い合わせ先>

  • <研究に関すること>

    山根 大輔(ヤマネ ダイスケ)

    東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 助教
    Tel:045-924-5031 Fax:045-924-5166
    E-mail:yamane.d.aam.titech.ac.jp

  • <JST事業に関すること>

    中村 幹(ナカムラ ツヨシ)

    科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
    Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2066
    E-mail:prestojst.go.jp

  • <報道担当>

    東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

    Tel:03-5734-2975 Fax:03-5734-3661
    E-mail:mediajim.titech.ac.jp

    科学技術振興機構 広報課

    Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
    E-mail:jstkohojst.go.jp

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