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2017-02-24 14:00:00 更新

24時間先まで電動車両の利用を予測しエネルギーマネジメントに活用する方法を開発~車のバッテリーで家庭の電気代削減も可能に~

平成29年2月24日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)

24時間先まで電動車両の利用を予測しエネルギーマネジメントに活用する方法を開発
~車のバッテリーで家庭の電気代削減も可能に~

ポイント

  • 車載蓄電池を活用した家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の普及で電気代削減が望まれている。
  • 車の出発時刻と帰宅時刻を、統計データとモデルから予測し、家庭の電気代を最小化する車載畜電池の充放電制御方式を開発した。
  • 検証実験より、家庭の電気代を10~40%程度削減できる可能性を示したことから、HEMSと電気自動車の普及促進につながることが期待される。

JST 戦略的創造研究推進事業において、名古屋大学 大学院工学研究科の鈴木 達也 教授らは、電気自動車やプラグインハイブリッド車(以下、電動車両)に対し、車の使用状態と電気量を24時間先まで予測し、予測結果を電力消費量や太陽光発電量と組み合わせることで、家庭の電気代をリアルタイムで最小化する車載蓄電池の充放電制御方式を開発しました。

家庭用エネルギー管理システム(HEMS)注1)では、定置型蓄電池の代わりに電動車両の車載蓄電池を家で活用するV2H注2)技術に対する関心が高まっています。現在のHEMSでは、家庭で車載蓄電池の充放電を計画する際、出発と帰宅の時刻を前もって入力しておくことが必要ですが、充電時間を長く見積もりすぎるなど、ロスを生み出す要因となっていました。そこで、車の使用時間を自動的に予測し、車載蓄電池の充放電を最適化する制御手法の開発が望まれていました。

研究グループは、車の使用状態の統計データと現在の使用状態に基づき、24時間先まで電動車両の駐車・走行パターンを自動的に予測する手法を開発しました。さらに家電機器の電力消費予測と太陽光発電の発電予測を同時に考慮することで、リアルタイムで家庭の電気代を最小化する車載蓄電池の充放電制御方式の開発に世界で初めて成功しました。検証実験では、日本の平均的な家庭において10%~40%程度(車の使用形態や電気代の価格設定に依存する)、1日の電気代を削減できる可能性があることが明らかとなりました。

この手法は車載蓄電池を活用したHEMSにおける核心的技術の1つですが、同時に電動車両に新たな付加価値をもたらし、それらの普及促進に大きく貢献すると期待されます。さらには電力系統安定化のための基盤技術の1つになることも期待されます。

本研究は、株式会社デンソーと共同で行ったものです。

本研究成果は、2017年2月23日(米国東部時間)に米国電気電子学会(IEEE)「Transactions on Control Systems Technology」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)
研究課題「エネルギー消費行動の観測と分散蓄電池群の協調的利用に基づく車・家庭・地域調和型エネルギー管理システム」
研究代表者鈴木 達也(名古屋大学 教授)
研究期間平成27年4月~平成32年3月

<研究の背景と経緯>

電動車両の車載蓄電池を有効活用するV2H技術は、定置型家庭用蓄電池の設置スペースやコストの削減につながることから、新しいEMSにおいて重要な技術の1つになると期待されています。また、車本来の移動手段としての利便性を妨げる事なく家庭での電力融通に利用可能な方法が望まれていました。普及に向けた課題の1つに、車載蓄電池の充放電制御の高度化があります。車載蓄電池の充電には時間を要するため、必要な充電量を確保するには、車の出発時刻や移動に使われる電気量、さらには帰宅予定時刻の情報が事前に必要です。現在のシステムでは、外出時間を固定化して設定していますが、駐車して充電する時間を長く見積もるなど、家庭での電力融通の効果を減少させてしまう可能性があります。

一方で各家庭には、生活スタイルに応じた車の使用パターンが存在する場合も多く、統計データに基づいた適切なモデル構築により自動的に車の使用状態を予測し、電気料金を最小化する充放電制御方式の確立が望まれていました。この技術は、電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及、およびV2H技術の普及促進に大きく貢献できると期待されます。

<研究の内容>

本研究では、電動車両などの車載蓄電池を活用したHEMSのための充放電制御を、モデル予測制御注3)の考え方に基づき設計し、プロトタイプシステム上に実装して有用性を調べました。具体的には、(1)車使用状態や家庭での電力消費量、太陽光発電量の測定値に基づいて24時間先までのこれらの数値を予測、(2)予測結果に基づいて電気代を最小化する24時間分の充放電パターンを混合整数計画法注4)により計画、(3)計画された充放電パターンのうち、30分間の充放電を制御器上で実行し、30分後に再観測を行う、という制御手順を繰り返します。この仕組みにより、最適制御とフィードバック制御のそれぞれの長所を融合した充放電制御が可能となります。この中でも特に、車の使用状態予測に関しては、これまでモデル予測制御に合った手法がなく、新たに開発する必要がありました。本研究では、車の出発時刻と帰宅時刻および使用する電気量の予測を、準マルコフモデル注5)上で状態系列推定問題として定式化し、動的計画法注6)を用いた実時間性のある解法アルゴリズムを考案しました。準マルコフモデルの構築にあたっては、蓄積された車の使用に関する統計データと、各時刻で観測される「駐車中」「走行中」といった車の使用状態を活用します。開発した車の使用状態予測に家庭内での電気機器の使用状態予測と太陽光発電の予測を組み合わせ、家庭での電気代をリアルタイムで最小化するモデル予測制御に組み込むことで、車の使用に関する制約を明示的に考慮しつつ車載蓄電池の充放電制御が可能なHEMSの開発に世界で初めて成功しました。

株式会社デンソーが開発したHEMSのプロトタイプを用いた検証実験では、日本の平均的な家庭において10%~40%程度(車の使用形態や電気代の価格設定に依存する)1日の電気代を削減できる可能性があることが明らかとなりました。V2H技術の普及促進において核心的技術になると期待され、学術的新規性のみならず、次世代の電動車両の活用とEMSをリンクする最も重要な技術の1つになると期待されます。

<今後の展開>

定置型蓄電池はコスト面や設置スペースの面で課題が多く、電動車両の車載蓄電池を活用したHEMSの実現に対する期待は高くなっています。車載蓄電池を活用したHEMSが実現できれば、コストの大幅な削減が可能となり、電気自動車やプラグインハイブリッド車に新たな付加価値が与えられることで、電動車両の普及促進に貢献することが期待されます。また、家庭内の電気代を削減するだけでなく、地域の電力系統安定化へ拡張することができ、分散的に点在する車載蓄電池を家庭、ビル、工場などの需要家を介して電力系統に接続することで、地域の電力を安定化する新しいV2G(Vehicle To Grid)注7)技術創出への展開が期待できます。

<参考図>

図1 電気自動車の駐車・走行時刻の予測に基づくモデル予測型充放電制御の概略図

HEMSは車が駐車しているか否かを観測し、観測情報と車の使用状態の統計データに基づいたモデルを用いて24時間先までの出発時刻と帰宅時刻を予測する。

図2 車の使用状況とHEMSの有無による購入電力量の変化

車が家に駐車している時間(白色)に、車載蓄電池を家庭で充放電する。HEMSの導入による電気代の削減は、①電気の購入価格が安い時間に車載蓄電池を充電し、電気価格が高い時間に家庭に放電する、②余剰となる太陽光の発電電力を系統に売る、ことにより得られる。車から家庭に放電するには、その分を事前に充電しておく必要があり、車の使用状況を予測することが不可欠となる。電気代の削減効果は、(b)のように車を駐車する時間が長い家庭の方が高い。

<用語解説>

注1) 家庭用エネルギー管理システム(HEMS)
家庭における電力等のエネルギーを管理するためのシステムで、需要と供給のバランスをとりつつ、電気代を削減することを主目的とするシステムである。
注2) V2H(Vehicle to Home)
電気自動車等の車載畜電池をHEMSに活用するための技術であり、特に車載畜電池の電力を家庭に供給することで家庭の電力需要の一部を担う点に特徴がある。
注3) モデル予測制御
観測、有限時間区間での実時間最適化、初期最適入力の実行、を各制御周期内で行う制御手法。制御のステップの進行とともに最適化する有限時間区間が時間方向にスライドするので、Receding Horizon制御とも呼ばれる。
注4) 混合整数計画法
連続値を取る変数と整数のような離散値のみしかとらない変数とが混在した最適化問題に対する解法。
注5) 準マルコフモデル
現在の状態が直前の状態と状態間の遷移確率の身によって決まるモデル。状態遷移が時間の関数となっていることから「準」という表記を付している。
注6) 動的計画法
ある最適系列を求める問題を漸化式的に逐次的に求めていく解法の総称。この考え方が適用可能な問題は計算量を劇的に低減させることができる。
注7) V2G(Vehicle to Grid)
電気自動車等の車載畜電池を系統(Grid)につなぐことで、電力系統の安定化を実現する技術。日本ではまだ車載畜電池から直接Gridへ電力を供給することは認められていないが、米国などではすでに実用化されている。

<論文情報>

“Model Predictive Charging Control of In-vehicle Batteries for Home Energy Management based on Vehicle State Prediction”
doi: 10.1109/TCST.2017.2664727

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

鈴木 達也(スズキ タツヤ)
名古屋大学 大学院工学研究科 機械理工学専攻 教授
〒464-8603 名古屋市千種区不老町
Tel:052-789-2700 Fax:052-789-5161
E-mail:

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:


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